【2015.12.3】研修レポート(2015.7.14)地域公共交通セミナー
以下のセミナーに参加しました。
1.平成27年度 地域公共交通セミナー
~公共交通の再生に向けた地方議員の皆様方のための研修会~
2.平成27年7月14日(木)10時~17時
3.大阪私学会館307号室(大阪市)
4.内容
1)自治体における公共交通政策総論(土井勉 大阪大学コミュニケーションデザインセンター特任教授)
(1) 働き盛り年代の交通が減ってきた
若い人は非正規労働が増え、収入減、低収入。
パーソントリップ調査の年齢階層別分析を見ると、若い世代の移動が減り、高齢世代(元気な高齢者)の移動が増えている。
(2) 公共交通の「赤字」は普通の企業の赤字とは違い、地域への「投資」とみるべき
地域への再投資と新たなビジネスモデル
(3)失敗する多くの場合は「失敗=問題」がある
無理してデマンド交通をスタートさせたとき、利用者が増えるほど、事業予算が増える。本当にデマンド交通が良いのか、ほかの方法はないのか、考えたのか?
バス運行が成立しないところでデマンドバスを入れる→デマンドの利用が増えてくる→コミュニティバスを入れる そうしなければ低料金のタクシーと同じになってしまう
利用促進のためのイベント実施は、実は実需要が増えない限り効果なし。地域の人たちのコミュニティ醸成には効果があるが、イベント依存で終わってしまう。
(4) 加西市では、年間2500万円の予算をコミュニティバスに投入し、コミュニティバスを通学に利用している。
もし、コミュニティバスをやめたら、通学のサポートを別途考えなければならない。
そのサポートに予算がかかる。
(5)交通システムでどんな価値を提供できるのか。そのための費用投入は「赤字」なのか、地域を支える「投資」なのか
クロスセクター・ベネフィット:公共交通が価値を提供する関連分野12でみる
2)世界の都市交通政策フロントランナー(松中亮治 京都大学大学院工学研究科准教授)
~新たな発想に基づく都市交通政策メニュー~
(1)都市構造と交通環境負荷
人口密度の高い国ほど、一人当たりガソリン消費量は少ない(反比例)
日本国内では、一人当たりガソリン消費量は、1987年よりも2005年のほうが、地方圏都市と大都市圏核都市および、大都市圏周辺都市の差が開いてきている
(2)新たな発想に基づく都市交通政策メニュー
ヨーロッパでは、自動車交通中心の都市交通政策からの転換が進んできている。
道路空間を自動車のものから歩行者のものへの転換
歩行者空間の整備、公共空間(道路空間)の再配分(自動車から歩行者・自転車へ)
・道路空間リアロケーション/歩行者空間整備
・交通静穏化政策(ゾーン30)
・LRT、BRT、Tram-Train
・トランジットモール
・ロードプライシング
・コミュニティサイクル/自転車政策
・P+R/駐車場政策
3)公共交通政策の財政と負担(正司健一 神戸大学大学院経営学研究科教授)
4)公共交通政策の実践(中川大 京都大学大学院工学研究科教授)
5)バス経費の7割ぐらいは人件費
補助金のふしぎ・矛盾
速く走っている路線はKm(走行距離)が伸びるので、Km単位で計算すると、補助金が高くなる。しかし、人件費は乗車時間に応じて発生するので、遅く走っている路線ほど人件費が高くかかる。
街中(渋滞個所多し)12Km/h
山の中(渋滞しない)30Km/h 同じ1時間走らせても、人件費は2.5倍になる
ダイヤのことも関係がある。運転していなくても休憩時間も人件費は発生する。
*自治体は、補助金を出すために、どのような計算をしているのか?
6)参加者からのQ&Aから
(1)公共交通は始める前に「最低これだけ乗車したら続ける」というレベル・基準を決めておくこと
(2)デマンドは、原則、バスサービス、コミュニティバスが運行できないところに運行すること。本来のコミュニティバス、タクシーに乗る人を奪うことになる。少なくともバス程度のサービスにすること。初めから敷居を下げておくと、あげるのは大変難しい。
最終的に何を目指しているのかがわからないデマンド交通が多い。利用すればするほど行政の負担が多くなる。しかし、利用すればするほど、行政の負担(公的負担)が下がるシステムでないと無理が生じる。
バス停も、ダイヤも決め、だれも乗らないときは走らないダイヤにする。そして、たくさん乗車するようになれば、将来は予約なしでも走るようにする、
(3)ニーズの把握の仕方
アンケート調査で「乗る」「乗らない」を利用者に聞いても無駄。アンケート調査はPRのためにやると考えたほうが良い。
どのように判断するかは、自分だったら乗るかどうか、便利かどうかがきまる。
自分のいるところから目的地まで行くことが大事。最初から「巡回」はやめて、来た道を戻るのが基本のルート
路線として考えているところ(道)を歩いてみる。駐車場があるところ、2台以上車を停めることのできる駐車場があるところ(家)は乗らない。集合住宅は乗る。
バス停の周辺に何人住んでいるかも大事な視点
アンケート調査では、「乗りますか」ではなく、日常の生活行動を検証するために聞く。(どこに行くか、何でいくか)
(4)ダイヤは、最低1時間に1本。パターン化すること(時間ごとに発着時間が違うのは乗ってもらいにくい)
5.感想・考察
「公共交通の「赤字」は地域への「投資」」というフレーズは、目からうろこでした。
費用対効果というと、目先のことだけ、直接の効果だけ見がちですが、「公共交通システムで、いかなる価値を提供できるのか」ということをクロスセクター・ベネフィットで考えることが必要だと理解しました。また、「環境の時代・高齢化の時代は公共交通に追い風」ということに加えて、元気な高齢者だけでなく、収入の少ない若者にとっての公共交通も考える必要があると思いました。
以上